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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)5105号 判決 1982年6月30日

原告

株式会社ツヅキ

右代表者

国領薫

右訴訟代理人

稲田堅太郎

被告

神谷喜一

右訴訟代理人

相馬達雄

松葉知幸

小川眞澄

中嶋進治

山本浩三

主文

被告は原告に対し、金一四六一万六九六八円及びこれに対する昭和五六年六月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

主文同旨

二  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

(請求原因)

一  原告は昭和五四年一月一一日に被告との間で、訴外ニッコー工業株式会社(以下、訴外ニッコーという。)と原告との間の継続的取引に関する商品の買受ならびにこれに附帯又は関連する一切の取引および同社の振出又は裏書にかかる一切の手形債務につき根保証契約を結んだ。

二  訴外ニッコーは同年四月二〇日に第二回目の不渡を出して事実上倒産して支払不能となつてしまつたが、原告は訴外会社との取引に関連して、同社に対して左記のとおり合計一八一三万七七八四円の債権を有していた。

(一) 金一六七四万一六五四円

但し、別紙目録(一)〜(六)記載の約束手形六通の遡及権にもとづく請求と同目録(七)記載の約束手形金請求権の合計金

(二) 金一三九万六一三〇円

但し、原告が訴外ニッコーより仕入れたアルマイトおよび材料不足分として既払代金から差引いて返還されなければならない代金減額請求権

三  逆に原告は右倒産時までに訴外ニッコーより仕入れたアルマイト代金の残金二一万八三五〇円の支払義務を負つているので、これを差引くと金一七九一万九四三四円となる。

四  そこで、原告は被告に対して同年五月二二日付書面でもつて根保証人としての義務を履行するように催告し、同書面は翌二三日、被告に到達した。

五  原告は訴外森田政良に対する執行力ある判決正本にもとづく強制執行手続によつて元本債権の内金として三三〇万二四六六円および同月一四日から昭和五六年六月一九日までの年五分の割合による遅延損害金一八八万五二二二円の支払を受けたので右配当金を差引いた残元金額は一四六一万六九六八円となる。

六  よつて、原告は被告に対し、請求の趣旨どおりの残元金の支払ならびに同月二〇日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。(請求原因に対する答弁)<以下、省略>

理由

一<省略>

二次に抗弁について判断する。

本件契約における被告の意思表示が心裡留保、詐欺又は強迫によると認めるに足りる証拠はない(なお、後記のとおり原告が訴外安田金属工業へ出荷の一時停止を依頼したのは訴外ニッコーから物的担保を徴していなかつたためであり、営業利益を追求する原告会社としては当然の措置というべく、これによつて被告に保証契約締結を余儀なくならしめたとしても不当とはいえない。)。

そこで本件契約が公序良俗に反し無効である、或は身元保証の責任に関する法律五条に照らし、被告に責任がない旨の主張について検討するに、抗弁事実中、被告が訴外ニッコーの営業部長であつたこと及び本件契約において被告の負担すべき責任限度額と保証期間が無限的であることは当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、

(一)  原告会社はアルミの素材の加工又は販売を業とし、昭和四七年以前から、アルマイトの製造、販売を業とする訴外ニッコーとの間でアルマイト加工取引をなしていたが、同社の商品不足、在庫管理の不備等から両社間の商取引は漸次減少していたこと、その後昭和五二年半ば頃から同社の原告会社との取引担当となつた常務の訴外田中が、訴外ニッコーの子会社である訴外サンライズ工業製造のカラーアルマイトの購入、販売を申し込んできたので、原告会社では同社との取引を始めたが、その製品にも不良品等があつて、ユーザーからのクレームがあり、原告会社では訴外ニッコーとの取引について警戒するようになつたこと

(二)  その後、訴外ニッコーでは訴外田中に代つて、取締役である被告が原告会社との取引担当となり、同社に対し、訴外ニッコーの系列会社である訴外安田金属工業と共に取引してくれるよう再三申し入れたので、昭和五三年九月頃から原告は、訴外ニッコーから注文を受け、更に訴外安田金属工業に発注し、製品は同社から訴外ニッコーに直送する形式で取引を始めたこと、被告は同社の株主ではなく、同社代表者と親族関係にもなく、アルマイト被膜の技術者であつたが、昭和五〇年頃に同社の取締役となり、昭和五二、三年頃から営業関係に携わるようになつたこと

(三)  昭和五三年末頃には訴外サンライズ工業の経営悪化が噂されたので、その頃原告会社では被告を呼んで事情を聴取したが、訴外ニッコーから購入、販売した製品の品質についてのクレームの問題も生じていたので、それまでの信用取引を改めて個人保証を要求することとし、面識のうすい訴外ニッコーの代表取締役である訴外森田政良のほか取引担当者である訴外ニッコーの負担する債務について連帯保証するよう要求したこと

(四)  原告会社では被告に対して連帯保証契約書の原案を作成して渡していたが、同人が保証書を持参しなかつたので、訴外安田金属工業に対して一時的に訴外ニッコーへの出荷を停止するよう求めたところ、昭和五四年一月一一日に被告が保証書(甲第一号証)を持参し、同月一七日には印鑑証明書も持参したので同社への商品の出荷停止を解除したこと、その後同月末に訴外ニッコーは第一回目の不渡りを出し、また被告自身も病気で同年三月末頃までの間入院するに至つたこと

(五)  原告と訴外ニッコー間の取引の差し引勘定は、月間約三〇〇万円の債務を訴外ニッコーが負担することになつていたが、同社はそれまでの買掛金債務について別紙目録の約束手形を含む各手形を振出して原告に交付し、一方、原告は右手形の殆んどを訴外安田金属工業に交付していたので、右手形が不渡りとなつた後、同社から裏書人としての責任を追求され、合計一六〇〇万円について昭和五四年七月から昭和五七年七月までの間に分割して支払う旨を約するに至つたこと

が認められ、<証拠>中、右認定に反する部分は採用しない。

右認定の事実のほか、前記請求原因事実も併せて考慮するに、継続的商取引より生ずる債務の保証において、保証限度額及び保証期間の定めがなくても直ちにこれをもつて公序良俗に反するとはいえないし、また、身元保証に関する法律五条を適用して保証責任の限度を定めることのできる場合があるとしても、右認定の取引経過、被告の保証に至る経緯等のとおり、被告は原告との取引担当者として契約時の債務内容額については熟知し、またその額をいつでも容易に知り得る立場にあつて契約を締結したものであり、保証期間についても本件においては契約締結後間もなく訴外ニッコーは倒産しているのであるから、限度額及び保証期間の定めのないことによつて、保証人たる被告に対して客観的に予測し得ない程度の債務額を負わせるに至つたとは到底いうことができないところであつて、被告が訴外ニッコーの取締役としての地位にあつたことも併せ考えれば被告の責任を免れしめるに足る事情があるとはいえない。

以上のとおりであるから被告の抗弁は全て理由がない。<以下、省略>

(牧弘二)

約束手形目録<省略>

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